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 ■ 診断士のための医療・福祉制度のしくみ−入門

 保健・医療・福祉の各分野を知るとき、ハードルを高くしているのが法令と制度の複雑さです。また同時にこの分野は、規制が多く独特の専門用語も多いので一層理解しづらくなっています。
 ここでは、医療・福祉分野の法令や制度について理解のポイントを説明してみます。


1:医療保険制度
―理解のポイントは支払基金―

 医療保険制度における医療サービス体制を把握する上で大切なことの一つに、保険給付の流れがあります。
  病院や診療所で受診や治療、あるいは入院をすると、病院等に一部負担金を支払うことで医療サービスを受ける事ができます。現在、本人の場合の負担は2割です。
 では、病院などの医療機関はどこから残りの8割の不足分をもらうのしょうか。このままだと経営が成り立たちません。残りの費用は会社等が直接病院に支払っているわけではありません。
 保険給付の流れを知るためには、「支払基金」という公的な機関が、各保険者(健康保険組合あるいは政府)と医療機関との間に入る事を押さえておくことがポイントになります。
 「支払基金」は健康保険組合などの保険者と契約を交わした公的な機関で、概ね各都道府県に一箇所づつ設けられています。

<図1:診療報酬フロー図 診療報酬支払基金HPより>


以下、フローにそって説明します。

1.保険料については、給与所得者は毎月の給料から控除され、自営業等は市町村の窓口に保険料を納めています。
 事業主や市町村は、その集めた保険料を保険者に支払っています。

2.患者が診察や入院治療等を受けると医療機関等は、実施した診療行為をあらかじめ決められている保険点数(診療報酬基準点数で1点が10円)に基づきカルテに記載します。
 そして月末に、診療内容を取りまとめた診療報酬明細書(レセプト)を作成し「支払基金」に請求を行います。

3.「支払基金」では審査員がいて、医療機関等の請求内容が診療報酬基準通りに請求がなされているかどうかを審査します。
 内容が妥当であれば保険者に診療報酬の請求を行います。
 例えば、医薬品の使用基準については、その医薬品に定められている適応症や薬価、投与量、投与期間等に照らし合わされ、その適性度が審査されることになります。手術などの医療行為についても、それぞれの手術に応じて、決められた基準通りに請求にされているかどうか等が審査されます。

4.請求を受けた保険者は、「支払基金」に対して、その診療報酬分を支払います。

5.「支払基金」は保険者から支払われた保険料を医療機関等に支払います。

 保険料と請求の流れの概略は以上の通りです。
 病医院だけでなく調剤薬局も同様な仕組みで、調剤料などの調剤報酬を支払基金から支払いをうけることになります。
 病医院などの医療機関が、直接事業主等とお金のやり取りをするのでなく、「支払基金」を間にはさんで、業務やお金の流れを整理しているのです。
 いわば、「支払基金」は流通における卸の機能とよく似ています。
 なお、「支払基金」には、対象になる保険者の違いによって、「社会保険診療報酬支払基金」と「国民健康保険団体連合会」の2つがあって、政府管掌保険や健康保険組合等は前者の「社会保険診療報酬支払基金」、市町村が保険者となっている国民健康保険については後者の「国民健康保険団体連合会」が窓口となります。
 また、「支払基金」の審査委員会は、診療側の代表、保険者の代表、公益(学識経験者)の代表の3者からなっています。


 「診療報酬」という言葉が出てきましたが、参考のため、診療報酬点数早見表の一部を掲載しました。

<図2:診療報酬早見表より>


 これは、胃、十二指腸の早期ガンに対して、内視鏡を使ってガン粘膜を切除したときの点数です。
 7500点とあるので、7万5000円であることになります。
 また、注2にあるように、手術当日に帰宅させた場合は、1000点(1万円)の加算が行われることになっています。これは後ほど述べる「平均在院日数」の削減を促進させるための政策のあらわれです。
  ただし、患者を1日で帰宅させても、請求しないと支払基金からは診療報酬はもらえません。
  規定以上の請求は減額されるが、請求漏れについての支払いは行われないのです。


2:医療法等

 医療法は昭和23年に施行されています。
 この法律の目的は、第1条に、「病院、診療所及び助産所の開設及び管理に関し必要な事項並びにこれらの施設の整備を推進するために必要な事項を定めること等により、医療を提供する体制の確保を図り、もつて国民の健康の保持に寄与することを目的とする。」とあります。
 簡潔に言えば、病院や診療所などの定義と、それらの施設の管理基準について定められていることになります。
 この法律のなかで注意するキーワードは、「療養型病床群」の定義と「医療計画」による地域の病床数の定めです。
 戦後一貫して量的拡大を進めてきた医療制度が、医療費の逼迫と少子高齢化社会に対応できるよう、質的な向上を目指す方向に変化してきているのです。

(1) 療養型病床群
 1992年の第2次医療法改正時に「療養型病床群」という新しい定義ができました。
 これによって、救急時や急性期に提供される医療サービスと、介護や長期療養など慢性期疾患に対するものとを分けました。
 介護や療養を主体にしている高齢者は一般病床ではなく、この「療養型病床群」において療養することになったのです。

 病院を機能別分類としてまとめると

1.大学など高度な医療を担う「特定機能病院」
2.二次医療圏の中で中核に位置づけられる「地域医療支援病院」
3.一般的治療を行う「一般病院」
4.老人などの長期療養のための「療養型病床群」となります。

  原則的に急性の負傷や疾患においては、医薬品や検査・医療機器など、使った分を診療報酬として認めている。(出来高払い制という)
 それに対して「療養型病床群」では、療養費を一定額に固定させるとともに、療養にふさわしい環境として病床当たりの医師や看護婦等の人数、一病床当たりの床面積等を規定しています。
 なお、「療養型病床群」の病床数や急性期のための一般病床数は、二次医療圏単位の「地域医療計画」で決められていて、施設サービスの総枠をしばり、在宅サービスへの政策的誘導を図っています。

(2) 包括支払い
 厚生省は先ほどの「療養型病床群」や一部の医療行為に対しては、固定的な診療点数だけを認めようとする医療費の「包括支払い制」(通称:まるめ)も進めています。
  医療費の「包括支払い」が行われると、医療機関にとっては、医薬品等をいくら使っても得られる診療報酬は一定額になるので、医薬品や検査等は極力使用しないようになります。
 医薬品などのコストを下げると利益がでる仕組みだからです。
 いままで薬で儲けていたものが、反対に薬はコストに変わってしまったのです。
 「クスリ」を逆に読むと「リスク」になります。医療機関にとってクスリはリスクになってしまったです。
 それは保険財政には効果がある反面、患者にとっては手抜きにつながる可能性もあります。
 医療費の「包括払い」の中には、「老人慢性疾患外来総合診療料」(通称、外総診)等があります。
 この「老人慢性疾患外来総合診療料」(外総診)は、老人の慢性疾患(高血圧・糖尿病・脳血管障害等)に対して、外来療養計画を立て日常生活の療養指導や診療を行う場合に認められているものです。
 医療機関にとって、対象患者あたりの収入が固定化されるのがポイントになります。
 医療コストの削減を図り、必要でない医療行為を防ぎ、医療財政の悪化に歯止めを掛けるのがねらいなのです。
 また、「包括支払い」の新しい試みとして、DRG/PPS(diagnosis related group/prospective payment system)というシステムを導入しようとする動きもあります。
 これは、特定の疾患群に対して最も効果の上がる治療方法を確立させ、その基準で診療報酬を支払うシステムです。効果の薄い治療や投薬、検査を回避させ、医療費の削減を図る目的があります。
 「根拠に基づく医療(EBM:Evidence Based Medicine)」の具体化の現れでもあり、医療の質の向上をねらっています。
 すでに一部の医療機関でテスト導入が進んでおり、「在院日数の削減」に成果がでていると発表されています。
 しかし、本格的に導入するには政治的なバイアスが働くので、もう少し時間が掛かるかも知れません。

(3)入院基本料等
一般病棟入院基本料  I 群(平均在院日数が28日以内)


基本点数 算定基準
看護配置
平均
在院日数
選択可能な
看護補助加算
一般病棟
入院基本料1
1,216点 2:1以上
(看護婦比率70%以上)
25日以内
一般病棟
入院基本料2
1,113点 2.5:1
(看護婦比率70%以上)
10:1  15:1
一般病棟
入院基本料3
943点 3:1以上
(看護婦比率40%以上)
6:1  10:1
15:1
一般病棟
入院基本料4
848点 3.5:1以上
(看護婦比率40%以上)
5:1  6:1
10:1  15:1
一般病棟
入院基本料5
788点 4:1以上
(看護婦比率40%以上)
4:1 5:1 6:1
10:1  15:1

注1)初期加算
  I 群 14日以内     452点加算 (入院基本料5は 440点加算)、
     15日〜30日以内 207点加算 (入院基本料5は 195点加算)、
     180日以上は   ▲50点減算
  II群 14日以内     312点加算 (入院基本料5は 300点加算)、
     15日〜30日以内 167点加算 (入院基本料5は 155点加算)、
     180日以上は   ▲30点減算

注2)看護配置加算、看護補助加算
  入院基本料3及び4、又は入院基本料5については、70%以上の看護婦を配置した場合は、12点あるいは8点を加算
  入院基本料2から5までについては、それぞれに掲げる看護補助加算を算定できる。

注3)院内感染防止対策未実施減額、入院診療計画未実施減額
  院内感染防止対策を実施していない病棟に入院する患者あたり 5点/日 減額
  入院診療計画を策定していない患者           350点/日 減額


 上の表は平成12年4月に新しくできた「入院基本料」です。
 いままであった「新看護体系」等は廃止され、「入院基本料」にまとめられました。
 詳細については、診療報酬改定のポイント1を参考にしてください。
 長期入院に対して逓減制等を導入しているのは、日本の入院医療に対する生産性の低さの改善がねらいです。前回の改正まであった「新看護体系」では、もっと逓減率が高くて、患者のたらい回しの元凶になっていました。今回の改正で逓減率は緩やかになっています。
 さて、「平均在院日数」という話が出てきていますが、日本の「平均在院日数」をOECD(経済協力開発機構)と比較した場合、日本の44.2日に対してOECDは11.8日と約4倍近くの開きがあります。
 その改善のために、在院日数期間の長短に対して報酬点数を変えているのです。
 看護婦比率をどうするか、療養型病床や一般病床をいくら取るかなどは、医療機関自身の経営戦略や財務計画、人事計画等を立案する際に欠かすことができない大きなファクターです。病院等の医療機関は慎重にシュミレーションを行い最適化を図る必要があります。
  一方、厚生行政として、「地域医療計画」による必要病床数の地域間格差是正で、病床数の削減や転換などが起きています。
 1997年現在、急性期病床は124万床あるといわれています。国際標準にあわせた「在院日数削減」が行われれば、およそ半分の60万床が不要になるという意見もあります。
 医療機関においては、「地域医療計画」等の厚生行政の動きにも十分な注意をはらい、経営戦略の立案を練る必要があります。


3:介護保険制度

 介護保険制度のシステムなどについては、すでに多くの解説本が出版されているので制度の細かな話は割愛させていただきます。
 ここでは介護保険制度導入の背景やねらいについて簡単に述べることにします。
 介護保険制度は、高齢化の進展に伴って増加している「介護需要」を効率よく供給するため、従来「措置制度」として運用していた老人福祉と、医療側からの老人医療との整合性を図った制度です。

 今までの老人介護の制度は「措置制度」であるため、

●総合的なサービスが受けらない
●利用者が自由にサービスを受けられない
●医療サービスの提供が非効率に行われている

 などのデメリットがありました。

 そこで、老人福祉と老人医療の2つの制度を共通のフィールドとして基盤整備を図り、運営の効率化をねらったものなのです。
 悪化する財政状況の中で、いかに効率よく限られた資源で、より良い福祉の実現を行うかが大きな目的にあります。
 医療サービスと介護サービスの統合化を図ることによって、高齢者をコストの高い医療施設介護から、低コストで運用が可能な在宅介護へ移動させることによって、医療財政負担の軽減を図ろうとしています。
 例えば、通常医療施設に入院した場合、一人当たり月額40万円から50万円の費用がかかると言われていますが、介護施設の場合は30万円前後、在宅介護になるとおよそ6万円から35万円程度で済みます。(平成12年2月現在)
 厚生行政の流れとしては、高齢者を医療施設よりも介護施設、介護施設よりも在宅介護への移動を促進させる方向にあります。
 また、民間企業者の参入を促進させ多彩なサービスを提供するねらいもあります。
 「御上」主導では、少子高齢化を背景にした人口構造の変化に、福祉システムが対処できなくなったからなのです。
 介護保険制度によって老人福祉と老人医療の統合が図られ、介護保険における施設サービスは、

1.介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)
2.介護老人保健施設(老人保健施設)
3.介護療養型医療施設(療養型病床群、老人性痴呆疾患療養病棟、介護力強化病院) 介護力強化病院は施行後3年間)

 の3つになりました。

 医療と福祉の境界線はいよいよ低くなり、ボーダレスになったといえます。


以上

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